明治二十三年、夏。
「水の都」松江の朝は、宍道湖に朝日が差し込み、鐘の音が響く静かな始まりです。
しじみ売りとして働く二十二歳のトキは、離縁の傷と借金を抱えながらも、懸命に生きていました。
そんなある日、「異人が松江に来る」という噂が町を駆け抜けます。
人々が熱狂する中、トキは群衆の中で異国の紳士――レフカダ・ヘブンと出会います。
手を取り合った瞬間、トキは彼の手の震えに気づきました。
遠い異国から来た彼もまた、不安と孤独を抱えていたのです。
やがてヘブンは「教師」として迎えられるものの、彼が抱えていたのは“言葉の壁”ではなく“心の壁”でした。
異国と日本、誤解と優しさ、そして「人として通じ合う」という希望。
松江の朝霧の中で、彼らは少しずつ心を通わせていきます。